春は買い物欲が動く季節だ、とよく言われる。だが実際には、人が何かを買うとき、そこには季節よりずっと根深い動機が働いている。4月のネット通販急上昇ランキングを眺めていると、ある共通項が浮かんでくる——「自分の手で触れて、管理できるもの」への執着だ。
紙に残すことの、静かな意志表明
スマートフォンのカメラロールには、もう誰も整理しきれないほどの画像が眠っている。だとすれば、わざわざフィルムを買ってチェキで撮るという行為は、「効率の外側」に出ることへの意志表明に他ならない。税込み1,380円という価格で4.74点という高評価を維持しているこのフィルムが売れているのは、若い世代が「レトロ好き」だからではない。デジタルで記録された瞬間は、見返される保証がない。物理的な一枚は、引き出しの奥に押し込んでしまっても「存在する」。その差が、今の人たちには意外なほど大きく感じられているのだと思う。
死なせてはいけない、という緊張感を買う
6,380円の「たまごっちパラダイス」が急上昇しているのは、懐かしさだけでは説明できない。育てゲーというジャンルは、「自分が関わらなければ何かが死ぬ」という緊張感を商品化したものだ。AIがすべてを自動化し、アルゴリズムが趣味を提案し、レコメンドが生活を最適化する時代に、あえて「自分が世話をしなければならない何か」を求めている人がいる。その感覚が気になっていた人なら分かる——あの小さな画面の生き物を育てることへの真剣さは、どこか「自分の裁量で何かを動かす」という体験の代替になっている。レビュー32件という数字は控えめだが、買った人間のほとんどが黙って育てているだけだろうと思う。
米を備える、という静かな決断
令和7年産の新米が3,441件という圧倒的なレビュー数を積み上げているのを見て、ああみんな米を買い込んでいるんだな、と思った。3,399円から選べるこの商品のデータが示しているのは、食品インフレと品薄への記憶がいまだ購買行動に刻み込まれているという事実だ。米は不思議な食品で、日本人にとって「米がある」という状態は、単なる食事の確保ではなく、生活が安定しているという感覚そのものを支えている。余裕のある量を手元に置いておきたいという衝動は、贅沢ではなく、今の時代における合理的な「安心の調達」なのかもしれない(気になる人はここで確認できる)。
肉体という、唯一確実な投資先
10,780円で3kgのホエイプロテインを買う人が増えている。2,182件のレビューは、これがとっくに「筋トレマニア向けの特殊なもの」ではなくなったことを示している。円安・物価高・将来不安——そういう時代に、人が最後に信頼を置けるのは自分の身体だという発想は、案外まっとうだ。株も不動産も自分の意志だけでは動かせないが、プロテインを飲んで負荷をかければ、確実に何かが変わる。その「手応え」を、みんな10,780円で買っている。
——
売れているものを並べると、その時代が何を恐れていて、何を信じているかが透けて見える。2026年の春、わたしたちが選んでいるのは、自分の手で触れて、管理できるものばかりだった。


コメント