春になると肌が敏感になる、という言葉を聞いたことがあるだろう。気温の変化、湿度の揺れ、花粉と紫外線の急増。だが今年の4月、美容カテゴリで急上昇している商品群を眺めていると、季節の変わり目に揺れているのは肌ではなく、どうも人の「意志」のほうらしい。迷うことに疲れた消費者が、ある種の決断を下した——そんな気配がランキングの隅々に漂っている。
「正規品」という言葉が商品名に入る時代
ページを開くと、商品名の冒頭に「【正規品】」と書いてある。制汗剤だ。ヨーロッパ発の医療グレードと言われるロールオンで、3,000件を超えるレビューが積み上がり、価格は3,090円。この商品が語っているのは「汗が気になり始める季節」の話というより、「一度偽物を買ったかもしれない」という学習の話である。正規品という言葉がタイトルに含まれているということは、正規品でないものが市場に出回っているということで、それを買った(あるいは買いかけた)人たちの経験が、このたった一語に凝縮されている。もう失敗したくない、という意思表示が3,000件という数字になっている(実物はこちらで確認できる)。
詰め替えを選ぶのは、「決めた」という宣言だ
今月の美容ランキングで異様なのは、上位に詰め替え用(レフィル)商品が2品も入っていることだ。エリクシールのレチノール配合しわ対策クリームが8,470円、同じくエリクシールの美容液が8,360円。どちらも「つけかえ用」である。かつて日本の詰め替え文化は節約のニュアンスが強かった。容器を自分で洗って、ちょっと面倒で、でも安い。ところが今の詰め替えには違う意味合いが加わっている。「もうこれで決まり」という宣言だ。無限の選択肢の中から一つを選ぶという苦痛を終わらせた人間が、次回から自動的に同じものを買い続けるための仕組みが、レフィルという形態である。美容液のほうは4.73という異様に高い評価がついているが、このスコアをつけた233人は「満足した」のではなく「安心した」のだと思う。
ツヤを1本で解決したい人の、静かな合理主義
ヘアオイルが1本ランクインしている。「track」という名前のスタイリング剤で、4,620円、456件のレビューを持つ。髪のツヤ出しとスタイリングを兼ねる多機能オイルで、春特有の乾燥と静電気が気になっていた人なら分かる感覚——「毎朝複数のアイテムを使い分けるのが、もうしんどい」という感覚に正確に刺さる。美容情報が過剰に流通している時代、ルーティンを減らすこと自体が一種のステータスになりつつある。「引き算できる人間」への憧れが、このオイル1本の売れ行きを後押ししている気がしてならない。
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「何を買うか」より「何をやめるか」が問われる季節に、人は正規品を選び、詰め替えを選び、1本で済む商品を選んでいる。選択の終わりを求めているというのは、消費行動の退化ではなく、成熟なのかもしれない。
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